Roger McDonald
TOTAL ARTS STUDIES(TAS) プログラム・ディレクター、ロジャー・マクドナルドによる、美術手帖ウェブ版での気候危機とアートについての連載記事シリーズ「アートと気候危機のいま|Art and Climate NOW」。ニュースやインタビューで海外の動向の「いま」をわかりやすく紹介する連載の第6回は、ロジャーによるミニコラムを紹介。世界のアート界でもっともCO2を排出しているものと、その対策について取り上げる。
──アート来場者と二酸化炭素排出量の現実。
芸術や文化分野から気候や自然、気候正義に対し行動を起こすイギリスの非営利団体・ジュリーズ・バイシクル(Julie’s Bicycle)は2021年4月、世界のアートセクターの温室効果ガス排出量推計の画期的な報告書を発表した(*1)。報告書では、2019年のデータを算出し、世界のアートセクターのCO2総排出量は年間7000万トンに達すると推定した。これはシンガポールの(一国としての)年間排出量にほぼ匹敵する(*2)。
報告書によれば、CO2排出量の11%は公立美術館から、7%はアーティストのスタジオから、5%はコマーシャルアートギャラリーから排出されており、これらには美術品の輸送、関係者の出張費ほかすべてのエネルギー使用量が含まれている。とりわけ目を見張るのは、全体排出量のうち、74%が訪問者の移動によるという報告だ。これは、世界のアート産業のCO2排出量の大部分を占めるのが、国内外からの美術館やアートフェア、ギャラリー、イベントへの訪問者の移動によるものという現実である。
*1──THE ART OF ZERO
*2──Per capita CO2 emissions
TOP画像:アートセクターにおけるCO2排出量内訳 “ART OF THE ZERO” p.13 より
気候危機とアート とは?
気候危機とアート
アートがもつ表象の力、美術史や言説と気候危機の関係、そして具体的な実践について、AITの活動全体を通じて追求していきます。アート・オンライン講座「崩壊の時代の芸術体験」コースやTASで行っている講座と合わせてご活用ください。