blogBACK

美術手帖にて公開|アートと気候危機のいま vol.8「フランシス・アップリチャードとマルティーノ・ガンパーのまなざし」

TOTAL ARTS STUDIES(TAS) プログラム・ディレクター、ロジャー・マクドナルドによる、美術手帖ウェブ版での気候危機とアートについての連載記事シリーズ「アートと気候危機のいま|Art and Climate NOW」。海外の動向の「いま」をわかりやすく紹介する連載の第8回は、ニュージーランド生まれのアーティスト、フランシス・アップリチャードとイタリア出身のデザイナー、マルティーノ・ガンパーにインタビュー。気候危機とアートについての対話をお届けします。

聞き手・文=ロジャー・マクドナルド 記事構成=小川知子 ポートレイト撮影=エレン・マクドナルド


気候や生物多様性の危機をとらえる、長期的かつ現実的な視点とは?

天然ゴム、陶器、ガラス、織物など多様な素材を用いた具象彫刻を主に制作している、1976年生まれのフランシス・アップリチャード。そして、廃材を使った家具制作やインテリアデザインで知られる、同世代でもっとも革新的なデザイナーのひとり、1971年生まれのマルティーノ・ガンパー。この夫婦とは15年以上の付き合いがあり、2024年11月には長野で我が家に滞在してもらった。私の書斎で、アート、彼らの仕事、そして気候と生態系の危機についてインタビューし、話し合った。

フランシス・アップリチャード

──現在、気候や生物多様性の危機についてどのように認識し、考えていますか?

フランシス・アップリチャード

恐ろしいことだと思います。自分をなだめるためにやっていることのひとつは、世界を非常に長期的な視点でとらえようとすること。だからこそ、恐竜に関連した仕事を多くしているのかもしれません。この地球は過去にも大きな気候変動を経験してきました。今回のように人為的なものではなかったかもしれないけれど、過去にも大きな気候イベントがあったと知ることも大切です。長い視点で見れば、大規模な絶滅が再び起こるとしても、それは自然な流れなのかもしれない。そうとらえると、この問題について考えることが少し楽になります。そうでなければ、私たちがしていることがあまりにも恐ろしく、絶望的に感じられますから。

マルティーノ・ガンパー


マルティーノ・ガンパー 1960〜70年代から、地球に対する新しい認識が生まれ、気候変動や汚染の影響が見え始め、感じられるようになったと思います。その時代から、「最悪のシナリオ」として世界が終わるという意識がありました。しかし、それは実現しなかったし、世界は終わっていません。とはいえ、私たちの社会は衰退しているかもしれないし、文明はたしかに大きな挑戦に直面している。とくに動植物にとってはね。しかし、地球にとっては、それは連続した変化の一部で、この100年間で加速しているだけなんです。何百万年もの時間をかけて起こっていたことが、いまでは急速に進んでいるように見える。それはたしかに恐ろしいことですが、私たちはその創造者であり、その担い手でもあります。

 結局のところ、誰を「救おう」としているのかによると思います。それは地球そのものなのか、それとも人間なのか。なぜなら、私たちは非常に短期的な時間スパンで物事を考えるからです。例えば人の一生は数年、数ヶ月、数日といった単位です。でも、種の視点から見るとどうでしょう? 私たちの種は失われるかもしれないし、何百万ものほかの種も失われるかもしれません。しかし、つねに突然変異が起こり、新しい種が出現する可能性もあるんです。

記事の続きを読む(ウェブ版美術手帖)



気候危機とアート とは?

気候危機とアート

アートがもつ表象の力、美術史や言説と気候危機の関係、そして具体的な実践について、AITの活動全体を通じて追求していきます。アート・オンライン講座「崩壊の時代の芸術体験」コースやTASで行っている講座と合わせてご活用ください。

EVENTS & WORKSHOPS

RELATED BLOG