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「ART IN THE OFFICE 2023」Liisa氏のワークショップ「Non me  - わたしたちの物語」

「ART IN THE OFFICE 2023」の受賞アーティスト、Liisa(りさ)さんによる社員向けワークショップのレポートです。

「ART IN THE OFFICE」(企画・主催:マネックスグループ株式会社)は、“現代アートが未開拓の表現を追求し、社会の様々な問題を提起する姿勢に共感し、現代アートの新進アーティストを支援する場づくりをしたい”という想いのもと、マネックスグループが2008年から継続しているプログラムです。AITは開始当初から運営協力を行なっています。また、毎年、受賞アーティストとともにワークショップやイベントの企画・実施もしています。

今回選出されたアーティストのLiisaさんは、マンガの技法と理論を用いて、どこか懐かしい場所や空気(肌に触れる風や匂い、音など)と、それとは相反する違和感やズレをテーマに、まるで夢の中にいるような没入感のある表現を模索しています。詳しくはこちら

共通する懐かしさと、異なること

当日のワークショップでは、マネックスグループの異なる4つの会社から17名の社員の方が参加しました。テーマは「没入感」と「共通の懐かしさや親しみのあるものと、そうではないもの(familiar / unfamiliar)」。

ワークショップは、Liisaさんが、「中国国籍で生まれはハンガリー、育ちはイタリア、今現在は日本にいて日中英伊の4か国語を話す」という実にグローバルな背景の持ち主であることが発想の元になっています。いろいろな環境に身を置くうちに、どの国で育っても、共通する懐かしさがあるのではと思うに至ったことが、現在の漫画の手法を用い、スクリーントーンを使った架空の世界を描く作風につながっているそうです。

”年代や環境、文化などが異なっていても「懐かしい」と感じる風景とはどういうものなのか、共感できるのかできないのか、そんなことを実験的にやってみたいと思いました。”とLiisaさん。今回、事前に社員の方々から幼少期のエピソードを聞き取り、それをワークショップの素材として使いました。

まずはランチを食べながら、2〜3名に分かれて、グループセッションを行いました。各自に配られた用紙には、それぞれ異なる「人には言えなかった小さな秘密や思い出」が書かれています。それを一人ずつ声に出して読んだ上で、そのエピソードの人物になりきり、ファシリテーターや参加者からの質問に答えます。たとえば「家で飼っていたオタマジャクシが死んだ」「夏休み、川遊びに出かけたときに『弟ができた』と聞かされた」「振り付けと一緒に歌う『ぞうさん』がとにかく嫌いだった」「モノにぶつかると、モノから復讐されると思って、こっそりモノを浄化する儀式をしていた」などなど、子どもの頃の個性的な思い出ばかりです。

なりきって、話してみる

実はこれらのエピソードは皆、今回ワークショップに参加してくださったみなさんから聞き取ったもので、グループ内にお互い持ち寄ったエピソードの本人がいるのですが、割り当てられるのは別の人の幼少期のエピソード。さも自分がそのエピソードを経験してきたかのように「それは何歳の頃ですか?」「そのときどう思いましたか?」などの質問に直感で答えていきます。

「マンガの主人公になったつもりで、自分の中で物語をつくってください」と、Liisaさんの呼びかけに参加者のみなさんも熱が入ります。

自身の子どもの頃の記憶と結びつけたり、小説やマンガで読んだような物語を思い出し、その世界に没入していきます!みなさん、誰かになりきって即興で話すことが本当に上手く、ご本人のエピソードなのではと思えてしまうほどでした。

ひと通り話し合ったあと、どのエピソードが誰のエピソードで、実際はどうだったのかを答え合わせしていきます。オタマジャクシのエピソードでは「100匹くらい飼っていたうちの1匹が死んでしまって、まだこんなにいるから大丈夫」と想像して話したところ、実際は「自分が死なせてしまったと思って悲しかった」ことが発覚しました。弟ができたというエピソードでは「楽しいことをしているうちに話した方が気まずくないと両親が思って、あえて川遊び中に言われた」との想像話が、実際は「川遊び中に少し深いところにはまって危なかったとき、母親から『お姉ちゃんになるんだからしっかりしなさい』と言われて、弟ができることがわかった」という全く違うエピソードでした。「モノを浄化する儀式を行っていた」というユニークなエピソードでは、八百万の神さまの話まで展開しました。

全く違う人生を過ごしてきたのにお互いに共通する経験があったり、想像と実際とは違ったエピソードに、みなさん笑い合って、盛り上がりました。

どの人にも共通する懐かしさ

他の人のエピソードを通して、子どもの頃の似たような気持ちや体験を思い出して言葉にする行為は、「共通する懐かしさ」を見出すと同時に、「違う面」を見出す行為でもありました。本人には悲しい記憶として残っていてた体験も、前向きなエピソードとして想像を膨らませ語られる様子はとても不思議な体験だったようで、エピソードを見聞きするうちに、それぞれが、自分の子どものころの秘めていた記憶を手繰り寄せる時間になったのではないでしょうか。

「もっとみなさんの子どもの頃の秘密のエピソードを伺ってみたいです」とLiisaさん。作品制作の刺激を受け、社員のみなさんとの距離を縮めるきっかけとなったようです。

ワークショップの企画は今回が初めてで、普段はリサーチからテーマ設定、制作までひとりで行ってきたLiisaさんにとって、大勢の方との創作は「作品の世界観やキャラクターの構想が以前よりも広がった」と後日語ってくれました。

「今回のワークショップでは、自分ではない、誰かの記憶に触れる機会となり、あるエピソードからキャラクターがつくられ、またそのキャラクターから新しいエピソードが語られるという往来を繰り返しながら、物語が構成されていく様は、とても面白い感覚でした。
日常会話の何倍もの熱量があり、この短時間で、目の前にいる人(キャラクター)がどんどん立体的に見え、新鮮で刺激的な経験となりました。
キャラクターが立体的であることと、キャラクターとその周りの世界との関係性・連続性の強さが、作品や表現したい物語の世界観のリアリティに直結していると信じています。
今後もいろんな人に子どもの頃の思い出や経験を聞こうと思いました(笑)」
_____________Liisa

また、今回初対面でお話しする社員同士のグループもありましたが、誰もが過ごした幼少期の思い出を共有することで、自然と会話も弾み、最後は「飲みに行こう!」と仲良くなったグループも。社員同士のコミュニケーションも活発な会となりました。

Liisaさんは、ワークショップを挟んでマネックスのオフィスで滞在制作を行い、完成した新作は、1年間マネックスグループ本社のプレスルームに展示されます。

Text: 和田、大隈(AIT)


参加者のコメント(抜粋)

今回のWSはよく練られていて、没入感のある企画でした。アーティストさんの意向と積極的な社員の交流がとても楽しかった。

なかなか得難い体験ができました。

「物語を作る」という創作活動の一環を体験できて面白かったです。他の方の子どもの頃の話を聞く機会はなかなかありませんし、 よい機会となりました。

「幼少期の秘密の記憶」という自分自身が一番語る力を持っているはずの事項に対し、他者による想像を通して語られることによってもう一度記憶に出会うことができた、というか、 出来事とそれを表すために語られた言葉のあいだのズレが鉢合わせすることで、そこから自分の体験に改めて出会えたような、そんな気持ちになりました。ありがとうございました。

とても楽しかったです! 楽しすぎてご飯を食べるタイミングが難しかった。もっと時間を気にせずにア ーティストと交流できたらよかった。

「温故知新」という言葉がぴったり合うと思いました。楽しみなのは今回初めてガラス面を利用した作品になることです。会議は未来を語る場であり、古きを未来に昇華させるコミュニケーションの場として、空間を最大限利用してよい作品を作っていただければと思います。


ART IN THE OFFICE 2023完成作品

Liisa《Liminal space》2023年/シートに油性インク、アクリル、スクリーントーン/ サイズ可変

Liisa プロフィール


1999年ハンガリー生まれ(中国国籍)。2001年イタリアに移住し、2018年来日。2023年京都精華大学マンガ学部ストーリーマンガコース修了。2023年より東京藝術大学大学院修士課程デザイン専攻(第8研究室Draw) 在籍。日常にあるものや場所に起因する記憶と、元の文脈から逸脱して生じる違和感やズレをテーマに、マンガの技法を用いて没入感のある表現を模索している。大学では、イラストを活用した空間とその体験についての研究を行っている。これまでの主な展覧会に、個展「祈願」(2022年、松栄堂薫習館、京都)、「ターナーアクリルガッシュ meets 漫画家」(2022年、ターナーギャラリー、東京)などがある。「TOKYO MIDTOWN AWARD 2023」アートコンペ ファイナリストに選出され、2023年10月5日(木)より東京ミッドタウンにて展示予定。2024年10月に「HIGURE17-15cas」(東京)にて個展を開催予定。

 

マネックスグループ株式会社について
MONEXとはMONEYのYを一歩進め、一足先の未来における人の活動を表わしています。常に変化し続ける未来に向けて、最先端のIT技術と、グローバルで普遍的な価値観とプロフェッショナリズムを備え、新しい時代におけるお金との付き合い方をデザインすると共に、個人の自己実現を可能にし、その生涯バランスシートを最良化することを目指しています。個人の自己実現において重要な要素である「資産形成」を中核事業としてきたマネックスグループですが、教育、ゲノムプラットフォーム、メタバースを含む、金融領域に限らないさらに広いフィールドへと踏み出し、個人のウェルビーイングの向上を目指します。https://www.monexgroup.jp/jp/index.html

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