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オンデマンド・アート講座「遊びと創造ー児童教育に見るアートのちから」

AITのオンデマンド・アート講座「TOTAL ARTS STUDIES Premier」(以下、TASプレミア)では、堀内奈穂子による 「芸術から眺めるこども、こころ、せかい」コースより、Series.3「遊びと創造ー児童教育に見るアートのちから」を公開しましたので、お知らせします。

シリーズ3では、歴史の中の実験的な美術教育や幼児教育を取り上げながら、「創造」や「遊び」を通して、子どもたちの精神の発達を促した教育者たちをご紹介します。そこに共通するのは、当時の伝統的な教育方法を刷新しながら、子どもたちの想像力や生来持っている衝動を、自然や社会、そして宇宙との統合を目指しながら表現へと昇華していくようなホリスティックな思考です。6回を通して、遊びによって自然が生み出す形や仕組みを体験した子どもたちが、その後どのように芸術や建築、デザインなどの分野でその表現を花開かせていったのか、また、現在にもつながる美術館の教育プログラムとの関わりにも触れながら、今の芸術と学びの関係性を押し進めるヒントを探します。

シリーズ3で参照する研究者や芸術家、思想家など

フランツ・チゼック、フリードリヒ・フレーベル、フランク・ロイド・ライト、バックミンスター・フラー、野口幽香、森島峰、ジェーン・アダムズ、ジョン・デューイなど


Series 3. 遊びと創造ー児童教育に見るアートのちから 

芸術から眺めるこども、こころ、せかい」コースより

インストラクター:堀内 奈穂子(AITキュレーター / dear Meディレクター)
レクチャー数:6 [ 各20 – 30分 ]
使用言語:日本語
視聴期間:90日間〜
料金:1650円(税込)〜 プランによって異なります

フランツ・チゼックー自由な衝動のための児童美術教室

19世紀の終わり、オーストリアのウィーンでは、グスタフ・クリムトやオットー・ワーグナーらが伝統芸術からの分離を目指し、より生活と結びついた造形芸術を確立する革新的な芸術運動、ウィーン分離派が創設されます。時を同じくして、ウィーン分離派とも親交が深かったフランツ・チゼックは、これまでの美術教育を批判し、子どもたちの自由な衝動を重視した児童美術教室を立ち上げます。そこでは、大人から子どもへの一方的な指導を廃止し、子どもたちのその日の気分に合わせて想像力を刺激するような手法が取られました。この回では、チゼックによる子どもたちの自律的な学びを紹介しながら、その教育実践が、後の芸術家や美術館の教育プログラムに与えた影響についてお話しします。

結晶から宇宙までーフリードリヒ・フレーベルの「遊び」の創造性  

幼稚園の発明者として知られているフリードリヒ・フレーベルは、子どもたちが生まれたときから内に備えている衝動に形を与え、遊びを通して表現するための道具として、現代の知育玩具の先駆けとなった「恩物(おんぶつ)」を組み合わせた学びを確立しました。さまざまな立方体や球体、線、点、面などによって構成される恩物が完成した背景には、フレーベルの自然観や宗教観があります。また、フレーベルが教育者としての活動を始める前に携わった結晶学の研究も、自然の中の形状を観察し、それによって人間の内なる精神を高めていくような学びの礎となっています。子どものみならず、大人にとっても重要なフレーベルの学びについてお話ししながら、その後の表現者に与えた影響の源泉をたどります。

フレーベルの「遊び」と、芸術・建築的思考

この回では、前回に引き続きフレーベルの実践に言及しながら、幼稚園のシステムや恩物が当時の万国博覧会などのイベントを通してどのようにヨーロッパやアメリカ、日本に伝来したのかお話しします。そうした中で、当時、多くの芸術家に加え、フランク・ロイド・ライトやバックミンスター・フラーなどの名だたる建築家が、実際に幼稚園教育を受け、恩物で遊んだ経験がどのようにその後の職業的な思考につながっていったのか証言を残しています。ここでは、恩物とともにそうした芸術家・建築家の作品を紹介しながら、かつての子どもたちがどのようにその体験から芸術的な概念を確立させていったのかお話しします。

フレーベルと日本の幼稚園―二葉幼稚園の哲学とセツルメンツ運動

日本では、明治時代にフレーベルのキンダーガルテンに倣い、幼稚園が創設されますが、当初の幼稚園は、上流家庭の子どもたちに向けたものが主流でした。そのような中、当時の最貧困の子どもたちに向けて、幼児教育者で社会事業家の野口幽香と森島峰が二葉幼稚園(現在の二葉保育園)を創設します。そこでは、自然と子どもの精神を結びつけるフレーベルの理念を継承しながらも、やがて、その活動は、子どもに限らず、地域のあらゆる家庭、そして女性の支援を行う社会事業へと発展していきます。ここでは、そうした日本の先駆的な幼稚園について紹介し、セツルメンツ運動の影響にも触れながら、日本におけるフレーベルの思想の発展についてお話しします。

がれき遊びから抽象的な庭へー「公園」と遊びの関係性

ここまで、4回を通して、学びや創造、そして、そこに関連する「遊び」が、想像力や芸術的な精神を育む上で大切な作業であるというお話しをしてきました。シカゴでセツルメント・ハウス「ハルハウス」を創設し、アーツ・アンド・クラフト運動の理念もその実践に取り入れていたジェーン・アダムズは、早くから子どもたちの遊び場の重要性を提唱していました。遊びは、子どもたちにとっては重要な仕事であり、また、権利の一つでもあります。この回では、近代の公園の歴史を早足に振り返りながら、戦争で破壊された都市を、遊びを通して再解釈していくような「ジャンク・プレイグラウンド」のアイディアから、機能を限定しない、抽象的な遊具によって、子どもたちの自由な遊びを提唱した公園までを紹介しながら、子どもたちのたくましい外遊びの発展について紹介します。

体験から新たな民主主義へージョン・デューイの「実験学校」

プラグマティズム(実用主義)の哲学を教育の分野で推し進めた人の一人に、「シカゴ実験学校」を創設したジョン・デューイがいます。そこでは、旧来の学科や教室のシステムを廃止し、「体験」を軸に子どもたちが手作業を通して物の成り立ちや仕組みを学ぶことで、社会の中で自律性を発揮できる教育法を実践しました。そうしたデューイの教育哲学には、フレーベルの思想はもちろん、芸術も重要なものでした。実際にデューイの学校システムでは、博物館は学びの頂点を示すものとして位置付けられています。

シリーズ最後の回では、デューイの教育哲学や芸術観を紹介しながら、過去の先駆的な教育者たちの哲学を継承するだけではなく、その時々の時代に合わせて検証し、発展させていく視点に触れながら、現在の芸術の体験や学びにそれらがどのように作用するかを考えます。