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オンデマンド・アート講座「芸術から眺める子どもの発見」

AITのオンデマンド・アート講座「TOTAL ARTS STUDIES Premier」(以下、TASプレミア)では、堀内奈穂子による 「芸術から眺めるこども、こころ、せかい」コースより、Series.2「芸術から眺める子どもの発見」を公開しましたので、お知らせします。

シリーズ2では、主に20世紀の芸術家たちが子どもの表現から受けた影響について言及します。この時代、多くの芸術家が無意識の領域や非文明的なものに関心を持ち、そうしたひとつに子どもの存在や表現も含まれていきます。さらに、芸術の領域以外でも、教育者や心理学者が子どもの絵を熱心に収集し、その特徴や発達段階の研究を行い発展しました。

6つのレクチャーでは、芸術家たちがどのように子どもの表現や心理学的側面から影響を受け、歴史に残る作品へと昇華させていったのか、無垢なだけではなく、時に気まぐれな側面も見つめながら芸術の中の子どもたちを発見していきます。

シリーズ2で参照する研究者や芸術家、思想家など

フィリップ・アリエス、アンリ・マティス、フランツ・マルク、ワシリー・カンディンスキー、ガブリエレ・ミュンター、ジョナサン・ファインバーグ、ローダ・ケロッグ、パウル・クレー、ジュディ・シカゴ、ミリアム・シャピロなど


Series 2.  芸術から眺める子どもの発見

芸術から眺めるこども、こころ、せかい」コースより

インストラクター:堀内 奈穂子(AITキュレーター / dear Meディレクター)
レクチャー数:6 [ 各20 – 30分 ]
使用言語:日本語
視聴期間:90日間〜
料金:1650円(税込)〜 プランによって異なります

絵画から眺める「子ども期」の発見

芸術の中で、子どもの存在はどのように位置づけられ、表現されていったのでしょうか。中世ヨーロッパでは、子どもは「小さな大人」とみなされ、子ども期への社会的な関心が薄かったと言われていますが、17世紀以降、子どもの死亡率の低下や社会的な認識の変化とともに、私たちが現在想像するような子ども独特の表情や姿が芸術の中にも現れてきます。ここでは、歴史家のフィリップ・アリエスの書籍を取り上げながら、中世の宗教画やピーテル・ブリューゲルの《子どもの遊戯》などの絵画作品を参照し、生き生きとした「子ども期」と芸術の関係性を眺めます。

ドイツ表現主義の芸術家と「子どもらしさ」の観察  

19世紀以降、児童心理学における子どもの発達研究が進むにつれて、多くの芸術家は、当時のアカデミックな芸術の価値をつくる文明への抵抗として、社会の基準に染まる前の子どもの存在や表現に魅了されていきます。ここでは、児童心理学の発展にも触れながら、アンリ・マティスやフランツ・マルク、ワシリー・カンディンスキーなど、ドイツ表現主義の芸術運動に関わった芸術家の作品を眺め、子どもたちの表現がどのように影響を与えたのかを考察します。

「子どもの視点」から世界を眺める:ワシリー・カンディンスキーとガブリエレ・ミュンター

ドイツ表現主義の芸術家であり、芸術グループ「ブラウエ・ライター(青騎士)」の主要メンバーであったカンディンスキーとガブリエレ・ミュンターは、子どもの絵を多数収集したことでも知られています。二人は、子どもの絵を「子どもらしく」している線や形、色などのさまざまな要素について熱心に研究し、自身の作品に取り入れました。ここでは、アメリカの美術史家で美術評論家のジョナサン・ファインバーグの書籍を取り上げながら、カンディンスキーやミュンターをはじめ、「ブラウエ・ライター(青騎士)」のメンバーの作品と子どもの絵を比較し、歴史に残る芸術作品に多大な影響を与えたと考えられる子どもの表現に着目します。

幼児の「なぐり描き」から見る形の出現

19世紀以降、芸術家のみではなく、多くの教育者や研究者も子どもたちの描画を収集し、その膨大な資料の中から子ども独特の表現や、発達段階における特性などの研究を行います。ここでは、教育者で児童心理学者、芸術家でもあったローダ・ケロッグによる書籍を参照します。長い間見過ごされていた幼児初期の「なぐり描き」から見る線や円、マンダラのような形状的な発展と、古代文字にもつながる根源的な要素を取り上げながら、多くの芸術家を魅了してきた子どもの「なぐり描き」から見られる普遍的な表現について考えを深めます。

パウル・クレーと「不穏な子どもたち」

多くの芸術家と同様に、パウル・クレーもまた、子どもの表現に着目し、自身が子ども時代に描いた絵は大人になった自分の作品よりも優れていると言った一人でした。また、息子のフェリックスの描く絵や話す言葉を記録し、そこから影響を受けたと考えられる作品も残しています。しかし、クレーは、ただ子どもの無垢さや純粋さのみに着目していたわけではありません。むしろ、時として子どもが持つ残酷さやいびつさ、冷笑的な態度を作品の中でとらえた芸術家だったといえます。ここでは、クレーがフェリックスのために制作したパペットやバウハウスで教鞭を取っていた時代に描いた作品を紹介しながら、クレーの作品に見る、気まぐれで皮肉な子どもたちの側面を眺めます。

メアリー・ケリー:「子どもを育む」性別分業と、芸術からの抵抗

ここまで、特に20世紀の芸術家と子どもの影響関係を眺めてきましたが、この時代、多くの女性芸術家にとって、子育てや家事労働など「母」としての役割と、表現者としての苦悩はより複雑な状況であったことが想像できます。ここでは、ジュディ・シカゴとミリアム・シャピロが中心に行った1970年代の「Womanhouse」のプロジェクトや、メアリー・ケリーの6年間におよぶ子育ての記録、精神分析を取り入れたプロジェクトを紹介します。子育てや家事労働などにおける社会的な抑圧やその葛藤を映し出す作品やプロジェクトを「今」眺める意義について考えます。