AITのオンデマンド・アート講座「TOTAL ARTS STUDIES Premier」(以下、TASプレミア)では、ロジャー・マクドナルドによる 「崩壊の時代の芸術体験」コースより、Series.3「異なる未来を創造する」を公開しましたので、お知らせします。
6回のレクチャーで構成される本シリーズでは、「崩壊の時代」において芸術の歴史や具体的な考えから、もう一つの生き方についてのヒントを共有します。気候危機や格差など、様々な問題が臨界点に達しつつある「人新世」の時代に、しなやかに生き、既存の制度や枠組みへのポジティブな抵抗が可能となるヒントを学べます。ぜひ、自宅時間に、クリエイティブマインドのトレーニングをしてみてはいかがでしょうか。
学べるキーワード
- アートは社会にどう役立つのか?
- 神経美学 ー脳が美醜をみわけるー死を迎える瞬間のためのアート
- 自由を奪回するためのハック
- ヨガや瞑想のラディカルな抵抗力
- トリックスター(アーティスト)の戦術
紹介する文献例
- 『トリックスターの系譜』(叢書・ウニベルシタス)ルイス・ハイド著 | 2005/1/1
- 『日常的実践のポイエティーク』ミシェル・ド・セルトー著|2021/3/12
研究者や芸術家、思想家など
- ジョン・ラスキン、サン・ラ、ウィリアム・バロウズ、アビ・ヴァールブルク、カール・ユング、ミシェル・ド・セルトーほか
異なる未来を創造する – Using Art to Make Different Futures
「崩壊の時代の芸術体験」コースより
インストラクター:ロジャー・マクドナルド(TASプログラム・ディレクター / フェンバーガーハウス館長)
レクチャー数:6 [ 各20 – 30分 ]
使用言語:日本語
視聴期間:90日間〜
料金:1650円(税込)〜 プランによって異なります
① アートと有用性:ジョン・ラスキンから今、学べること
19世紀のイギリスには、アートを生活や労働と関連付けようとした思想家ジョン・ラスキンという人物がいました。社会的有用性とアートはどのような関係があるのでしょうか。ウィリアム・モリスが主導したことで知られるアーツ・アンド・クラフツ運動で、ラスキンは実験的な活動を展開しました。また、このような考えは日本にも影響をもたらし、大正時代に広まった「民衆芸術論」、そして「白樺派」やマクドナルドが住む長野県佐久地域での芸術と民主化運動などにもその痕跡がみられます。こうした実践から、アートが社会における「道具」のようなものとして考えられるのではないか、また、これまで美術史に描かれてきた王道の歴史とは異なるオルタナティヴな可能性が考えられるのではないでしょうか。
② 芸術の影響:神経美学、ガレーゼとヴァールブルク
神経美学(neuroaesthetics)は、脳の働きと美学的経験(美醜、感動、崇高など)や、脳の機能と芸術的活動(作品の知覚・認知、芸術的創造性、美術批評など)との関係性を研究する分野です。1980年代に行われた神経美学の研究を紹介し、イメージと私たちの意識や感情がどのように関係しているかについて考えます。近年、絵画は私たちが想像するよりも肉体や脳に大きな影響を与えていることが明らかになっています。このような研究と美術鑑賞体験はどのように関係しているのでしょうか。ドイツの美術史家アビ・ヴァールブルクの先駆的な分類や、スイスの心理学者カール・ユングが提唱した「元型(アーキタイプ)」についても考えます。
③ よく死ぬためのアート
15世紀のイタリアでは、イエス・キリストや聖母マリアを描いた絵画が死刑囚に向けて展示され、死を迎えるその瞬間まで「見る」イメージとして、アートが存在していました。こうしたヨーロッパの事例と同時に、チベットでは臨終間際の人々の枕元で読み聞かせられるという『死者の書』が存在します。アートはどのような形で「死」の瞬間と関係があるのでしょうか。現在、オランダの財団が実践している「エンド・オブ・ライフ」とアート鑑賞についての事例も紹介しながら、これからの時代において美術館が「コレクティブ」なホスピス的空間になっていくことについても提案します。
④「エコロジーになる」:サン・ラとウィリアム・バロウズ
今や「芸術」は人間にとって、自由を奪回したり、何かを解放する力強いツールやハックのひとつといえます。規律や管理で溢れる社会から一瞬でも逃れ、別の生き方や可能性を探る有効なエネルギーとしてアートを捉えた二人、サン・ラとウィリアム・バロウズについて紹介します。共同的なジャズや宇宙的創造性を追求したサン・ラ、そして独創的な「抵抗」の考え方を実践した作家ウィリアム・バロウズ。彼らの活動から見えてくるアートの革命的な「エコロジー作り」を考えます。
⑤ 21世紀の政治とカウンターカルチャーの精神修行
2016年頃から主にイギリスの理論家たちの間では「サイケデリック社会主義」という考えが盛り上がりをみせました。特に、1960年代のカウンターカルチャーによる意識の拡張や精神を高めるサイケデリック運動と意識変容、そこから学べることや社会変革の関係性、そして、21世紀におけるラディカルな政治の可能性は何でしょうか。新たな世界を考え実践していく上で、もう一度、瞑想やヨガ等の古典的な精神修行のテクニックが本来持っている、単なるリラックスや自分探しだけではない、ラディカルな可能性について考えます。
⑥ 日常を生きるためのペテン師の戦術
神話や民間伝承の物語に登場する、「ペテン師」や「トリックスター」と呼ばれる、ちょっとした悪戯をする存在が、いかにアートと近い関係にあるかを考えます。また、フランスの哲学者ミシェル・ド・セルトー著『日常的実践のポイエティーク』より、苦しい状況を生きた無名の人々の戦術(技芸)を紹介しながら、私たちが暮らす社会のルールに対して、イライラせず、簡単に、楽しくジャッジしていけるポイントを紹介します。多くの文化に存在する「トリックスター」は、権力や日常生活を「ほぐす」要素としての大切な役割も果たしており、アートの社会的な可能性を考える上では重要な観点ともいえるのではないでしょうか。