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気候危機とアートの勉強会「Green Study Meeting Vol.8」レポート 北海道、愛知、東京、地域から考えるアートと気候アクション 

初めて東京を離れ、札幌のオルタナティブ・スペース「苗穂基地」にて開催した、気候危機とアートの勉強会 Green Study Meeting Vol.8の坂口千秋によるレポートです。

さまざまなアートセクターのプレーヤーとともに学びあう、気候危機とアートの勉強会「Green Study Meeting」。8回目となる今回は、初めて東京を離れ、札幌での開催となった。会場は札幌のオルタナティブ・スペース「苗穂基地」。AlTの塩見有子とロジャー・マクドナルドが現地に赴き、札幌で資材循環プロジェクト「シュウカツ(周活/shukatsu)」を主宰するアーティスト・岡 碧幸さんと、芸術祭のアーキテクトとして活躍する建築家・丸田知明さんの2人をゲストに迎えた。アート界と気候危機をめぐる世界の動向や日本での実践、さらに地域の状況や可能性について、来場者やオンライン視聴者とともに意見を交わした。


加速する地球温暖化とアート界の危機感

「札幌も暑いですね……」開口一番、長野在住のロジャーは率直にそう呟いた。かつてはエアコンいらずで涼しい夏を過ごせた長野や札幌でさえ、近年は30度を越える真夏日が続き、異常気象がすっかり日常化してしまった。地球温暖化は予想を上回る速さで加速しており、最新の科学研究もその原因の特定には至っていない。さらに予想外の事態も次々と発生し、その不確実性に科学者たちは頭を抱えているという。生態系への影響も深刻で、毎年1~2%の昆虫の種が絶滅しているというデータもある。

ロジャーはまず、こうした気候科学の最新情報に触れつつ、私たちが気候変動の緊急事態の只中にあることを大前提として、AITがこの問題に取り組むきっかけとなった二つの出来事を紹介した。

ひとつは2019年、AITのアーティスト・イン・レジデンス(AIR)に招聘されたスウェーデンのアーティスト、アーロン・ランダールが、ヨーロッパからシベリアを経由して陸路とフェリーで来日した出来事。これはAIRの歴史で初めての事例であり、彼の行動や、環境負荷の少ない移動手段を選ぶアーティストに支援を行う文化機関の姿勢から、気候危機とアートの関係について強い示唆を得た。同じ年に報じられた、アイスランドで完全に消失した氷河の「国葬」のニュースも、自然環境の変化にどう向き合うかを考える契機となった。

気候危機に取り組む必要性についてAIT内で議論を重ねる中で、まずは知ることから始めようと、2023年にアートセクターのさまざまな人々と共に勉強会をスタートさせた。徐々に活動を広げ、2024年夏には気候学者や美術館館長、輸送の専門家、アーティストを招いた大規模なシンポジウムを東京で開催。あわせて、気候危機とアートのアクションを考えるプロジェクト「Art Climate Collective Japan(ACCJ)」を正式に立ち上げた。Webサイトで具体的な対策に役立つツールやリソースを発信し、日本のアートセクターにおける気候危機への意識と理解を深め、業界全体で環境の持続可能性に貢献することを目指している。これまでの取り組みについては、過去の記事をご覧ください)。

AITのこうした動きは、2020年に英国のギャラリストが立ち上げ、世界で1000を超える賛同者を持つ非営利団体ギャラリー気候連合(Gallery Climate Coalition(以下 GCC))の活動に倣うところが大きい。GCCは、2030年までにアート界のCO2排出量を50%削減し廃棄物ゼロを目標に掲げ、気候科学者と制作した有効なガイドラインを用意している。GCCのアクティブメンバーでもあるAITは、GCCのガイドラインを日本語に翻訳してACCJのウェブサイトから誰でもダウンロードできるようにしている。

世界の動向

先述のGCCをはじめ、世界には、アートと環境の問題に取り組む多様なイニシアチブやアクティビズムがある。そのほとんどが、まず賛同者を募り、無料のツールやガイドライン、アクションプランを提示しながら、アドボカシーに力を入れている。2022年の調査では、欧州の美術館の7割以上が気候変動を自分たちの課題と回答しており、欧州アート界の気候危機への関心の高さがうかがえる。中でもテート・モダンは、フランシス・モリス元館長の時代に美術館の方向性を大きくエコへシフトした美術館だ。再生エネルギーへのシフトや施設のトイレの水を雨水に変えるなどのハード面での取り組みのほか、美術館周囲の空き地の草刈りを減らして生態系を再生し屋上で養蜂を始めた小さなアクションなど、多岐にわたる取り組みが行われており、それらをまとめた監査報告書を毎年作成している。

「環境対策というと、とかく大規模なインフラを思い浮かべがちだが、小さくても創造的な実践が可能であることをテートの例が示している」とロジャーは語り、あわせてテートが設置した「キュレーター・オブ・エコロジー」という役職にも言及した。これは、環境や地球の視点から展覧会づくりに関わる、いわば“環境学芸員”ともいえる存在。こうしたポジションは、サーペンタイン・ギャラリーやカナダのオンタリオ美術館などでも導入されており、そのような画期的な人事体制に、欧州の美術館が環境問題に真剣に取り組む姿勢が表れていると、ロジャーは指摘した。

また、日本でも気候危機へのアクションは起きている。アート×気候変動にいち早く取り組む例として、信州アーツカウンシルと協力して信州各地をキャラバンして開催される「信州アーツ・クライメート・キャンプ」の活動紹介された。

2024年、アートと気候危機に取り組む4団体と国連の環境部門が正式に提携し、「Art Charter for Climate Action」という憲章がベネチアで締結された。こうした動きを受けて、アート界における連帯の気運はいっそう高まったように思えた。しかし、アメリカでトランプ政権の誕生以降、この流れが急速に鈍化し、元の状況へと回帰する傾向も見られるという。

ロジャーは、「この道のりは決して平坦ではない。海に囲まれた日本では陸路への切り替えも難しいため、単に欧州の動きに追随するのではなく、日本の事情に合った取り組みを、アートセクター全体で考えていきたい」と締めくくった。

地域における実践事例その1
資材循環プロジェクト 「シュウカツ(周活/shukatsu)」(札幌)

ついで、アーティストの岡 碧幸さんから、アートマテリアルのリサイクリングのシステム「シュウカツ」についてプレゼンテーションが行われた。シュウカツとは、アート制作で生じる余剰資材を回収・保管し、それを必要とする人に提供する資材循環のプロジェクト。岡さんは自身のドイツ・ミュンヘンでのAIRをきっかけにシュウカツを立ち上げた。

記事の続きを読む(Art Climate Collective Japanウェブサイト)


*あわせてぜひお読みください

気候危機とアートの勉強会「GREEN STUDY MEETING VOL.3」レポート 文:福島夏子 (Tokyo Art Beat) (2024.4.19) https://www.a-i-t.net/blog/p16933/

気候危機とアートの勉強会「GREEN STUDY MEETING VOL.4」レポート 文:坂口千秋 (2024.7.23) https://www.a-i-t.net/blog/p18664/

気候危機とアートの勉強会「GREEN STUDY MEETING VOL.5」レポート 文:武田 俊 (2024.8.22) https://www.a-i-t.net/blog/p19460/

気候危機とアートの勉強会「GREEN STUDY MEETING VOL.6」レポート 文:武田 俊 (2025.4.23) https://www.a-i-t.net/blog/p22782/

気候危機とアートの勉強会「GREEN STUDY MEETING VOL.7」レポート 文:小川知子 (2025.8.20) https://www.a-i-t.net/blog/p24292/

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アートがもつ表象の力、美術史や言説と気候危機の関係、そして具体的な実践について、AITの活動全体を通じて追求していきます。アート・オンライン講座「崩壊の時代の芸術体験」コースやTASで行っている講座と合わせてご活用ください。

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