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「気候危機とアート」シリーズをはじめます

アートがもつ表象の力、美術史や言説と気候危機の関係、そして具体的なアクションや実践について考えていきます

アメリカの環境活動家ビル・マッキベンが、2005年にオンライン雑誌「グリスト」(*1) に寄稿した興味深い記事があります。そこには、「気候変動は人類にとって非常に大きな事柄にもかかわらず、人々はこの危機の状況を掴めない」と書かれていました。そして、アートの役割の一つには、複雑な状況を「消化する」ことができるのでは、とも問いかけています。

それから16年たった今、気候変動や温暖化は「気候危機」あるいは「気候緊急事態」という言葉に変わり、世界中で議論されています。そして、2021年10月末日、スコットランドで第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開催されるにあたり、AITでは「気候危機とアート」シリーズを開始することにしました。アートがもつ表象の力、美術史や言説と気候危機の関係、そして具体的な実践について、AITの活動全体を通じて追求していきたいと考えています。

気候変動をめぐる動き

 COP26では世界の国がもう一度、この目標を見直して、新たなアクションを取れるかが焦点になっています。その背景には、2021年9月の国連のレポート(*2) が、各国による気候変動削減目標は不十分であると強調したことがあります。また、その少し前の2021年8月に発表された気候変動に関する政府間パネルのドラフトレポート(*3) も、気候変動の深刻な状況にスポットを当て、世界的に注目されました。そこで特に報道されたのは、2015年のパリ協定 温度上昇目標の1.5度を、高い確率で達成できないということでした。温暖化ガスは減少どころではなく、ポストコロナの経済成長によって、なんと16%増加傾向にあるといいます。壊滅的温暖化を避けるためには、45%カットが必要とされているにもかかわらず。異常気象や干ばつ、気候難民の問題が、もっと頻繁に起こる未来が確実になりつつあります。

いま、どの国や企業や政治家が、この削減目標を真剣に考えているでしょうか。多くの活動家や知識人が指摘しているように、世界はいまだに経済成長優先の「夢」の中にいるように思えます。さらに、「グリーン成長」でさえも、厳しく見直すことが求められていると思います(*4) 。

アートと気候危機

 このような状況の中に、私たちもアートも存在しています。特に2010年以降のグローバルアート市場、コレクターの増加、個人美術館の増加、NFTアートの市場のバブルや投資目的でアートを売買する行為は、大きな気候への影響もあると指摘されています(*5) 。

今回1回目となる「気候危機とアート」シリーズでは、世界のアートやアート界が気候危機についてどう反応してきたかをまとめています。そこには、私が2019年から主観的に集めてきた情報です。もちろん、全てを網羅している年表ではありませんが、2010年以降の様々な動きや考えをこうしてまとめていくと、一つの時代の流れが見えてくるようにも思えます。

AITの取り組み

 産業としてのアートもあれば、歴史や言説、身体感覚としてのアートもありますが、気候危機に対しては、あらゆる方面からアクションを起こすことが大事だと考えています。

今年の7月に立ち上げたオンライン講座「崩壊の時代の芸術体験」コースでも、24本のレクチャーを通じて、危機的な時代の中でアートがどのように機能するのか、心のケアやコミュニティー作りに役に立つのかを考察しています。

また、AITは、2020年10月にロンドンで設立された「ギャラリー気候連合(Gallery Climate Coalition)」のメンバーとなりました。今後は、国際的な団体とも連携を進めながら活動していきます。

最後に

 マッキベンは次の言葉でエッセーを締めくくっています。「衛星や測定機器で(地球に)何が起きているかをある程度、理解することができるが、最も敏感な機器である『人間の想像力』で気候危機を捉えることはできるのだろうか」

人間の想像力から新たな可能性や生き方、共感と愛が生まれてくることを信じて、本シリーズをお届けします。今後、AITメールニュースでも発信していきますので、ぜひご登録ください。一緒に考えましょう。


*1) https://grist.org/article/mckibben-imagine/

*2) https://unfccc.int/news/full-ndc-synthesis-report-some-progress-but-still-a-big-concern

*3) https://www.theguardian.com/science/2021/aug/09/humans-have-caused-unprecedented-and-irreversible-change-to-climate-scientists-warn

*4) https://www.theguardian.com/commentisfree/2021/sep/29/green-growth-economic-activity-environment

*5) https://news.artnet.com/opinion/climate-change-op-ed-1833852 / https://www.ft.com/content/1c667757-f4ee-47d9-bbce-47a86bcfe830 / https://www.wired.com/story/nfts-hot-effect-earth-climate/

気候危機とアート とは?

気候危機とアート

アートがもつ表象の力、美術史や言説と気候危機の関係、そして具体的な実践について、AITの活動全体を通じて追求していきます。アート・オンライン講座「崩壊の時代の芸術体験」コースやTASで行っている講座と合わせてご活用ください。

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