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オランダ出身アーティスト、モーリーン・ヨンカー 日本滞在レポート


AITが行うアーティスト・イン・レジデンスプログラムでは、2003年よりモンドリアン財団との連携により、オランダを拠点に活動するアーティストを東京に招聘しています。本ブログでは、2023年に招聘したオランダ・ユトレヒト在住のモーリーン・ヨンカーによる滞在レポートと、リサーチの様子を写真とともにご紹介します。

モーリーン・ヨンカー(Maureen Jonker)について

モーリーン・ヨンカーはオランダを拠点とするアーティストです。絶えず変化する空間や状況において、人間の身体を配置する可能性を探求しています。こうした関心は、彼女が数年間続けてきたスポーツ、シンクロナイズドスイミング(近年はアーティスティックスイミングと呼ばれる)に由来しています。ヨンカーの作品にはシンクロナイズドスイミングへの直接的な言及はありませんが、振付に関する創作意欲や関心の一つの源となっています。


「ムーブメント(動き、移動)」の運動

私のAITでのレジデンス・リサーチは東京の路上から始まりました。例えば、街なかの喫煙所やその出入り方法、階段や公共スペースでの矢印と文字の組み合わせ、自然の中にある看板やサイン、人々の独特なお辞儀の仕方、階段やエスカレーターの非論理的な使い方に至るまで、思わぬ出合いの連続でした。なかでも私が一番気に入った発見は、視覚的な説明が必要なあらゆるもののマニュアル、特に公衆トイレの「マナー」カードでした。

こうして多くの公共スペースの視覚的な構成要素を集めた後、日本の舞踏と舞台芸術について調べました。私は、伝統的な日本の舞台芸術においては踊りと演劇の垣根があまりないと感じていたので、それにもっと親しみたいと思いました。やがて、いくつかの伝統的および現代的な作品を鑑賞したり、伝統的な日本舞踊や狂言クラスに参加するうちに、日本特有のパフォーミング・スタイルを受け入れることができました。また、演者が作品を完璧に演じるために注ぐ努力には感動しました。これは私がこれまで慣れていたものとは異なり、動きはカウントに基づくのではなく、話し言葉に基づいていることを知りました。


「動き(*)」の定義:「移動または位置を変える行動または過程;動作」

上記に挙げた例はすべて、動きや運動の特定の定義です。マニュアルに書かれている場合や、階段やコンクリートの壁で区画化されている場合、それを実行するためには特定の方法で移動する必要があります。これらの道具や公共スペースの特定の配置は、動きを明確にし、人々を次の目的地へと誘導するために設計されています。それは、意識的であれ無意識的であれ、場所や位置、身体(の一部)をある場所から別の場所へと移動、配置を変えることを求めます。

私はアーティスティックスイミングの経験があるため、人々のフォーメーションの編成や動き、グループでの同期を考えることには慣れています。公共空間での発見と私の考え方の両方が、このレジデンスの結論に向けた明確な出発点となりました。滞在終盤に私が企画した動きのワークショップでは、参加者の関わりがアイディアの軸となりました。

「動き」のライブラリー

動きのライブラリーワークショップでは、参加者に「動き」を共有してもらいました。このワークショップは、参加者同士が共同で「動き」をつくり、それをシェアすることで構成されています。

参加者はそれぞれ、「動き」にまつわる日々の出来事を絵に描いたり、コラージュしたりして、カードを完成させます。それらの動きと絵は私のデータベース「動き(ムーブメント)のライブラリー」に加えられていきます。

このワークショップは、次のような問いを背景にして作られました: 言葉が通じなくても、コミュニケーションは可能だろうか。言葉が通じない場合、どうやってコミュニケーションをとることができるのだろうか。静止した動きを動きに変換するには?クリエイティブで楽しいことに加えて、他の人とつながることがこのワークショップの最も重要な部分でした。

ワークショップを終えて、これは私の芸術的実践における新たな研究の道のりの始まりだと実感しています。このリサーチが継続されることをお伝えできて、とても嬉しく思っています。このリサーチが私のインスタレーションに展開される最初の機会は、オランダのアイントホーフェンにあるTAC, Nul Zes, Gasfabriek 3で2024年8月31日から9月1日および9月7日から8日に行われます。ワークショップのスケジュールも近日中に発表される予定です。展覧会「ALL MAN’S LAND」ウェブサイトはこちら。(オランダ語)

AITのみなさんには、東京や近郊を案内いただき、すべての展覧会や公演、ダンスクラスに連れて行ってもらい、心から感謝しています。レジデンス期間中に協働してくださったコンテンポラリーダンサーの皆さん、そして滞在中に出会った全ての方々に感謝をお伝えします。

皆さんとお話しできたことは、とても興味深く、刺激的でした。最後になりましたが、資金的にこのリサーチを可能にしてくれたモンドリアン財団に心から感謝申し上げます。みなさん、ありがとうございました!


To be continued(続く)

モーリーン・ヨンカーは2024年2月から4月までAITのアーティスト・イン・レジデンスで東京に滞在しました。レジデンス期間中、リサーチに関するさまざまな要素を集めた特設ウェブサイトを制作しました。これは、イメージを追加したり更新できる進行中の(デジタル)スペースであり、あらゆる「動き」をウェブサイトの中で翻訳することができます。
詳しくはこちら: http://www.motionofmovement.com

テキスト:モーリーン・ヨンカー

*注釈
Dictionary.com, (2024), [online], https://www.dictionary.com/browse/motion#

運動とは、意図することなく位置を変えることを意味する。移動することの物理的性質を表す。通常、何かがどこに向かっているかをコメントするのではなく、何かが静止していないことを強調する。
Movementは動くことの特質を意味する。人が動いている場合、ほとんどの場合、モーションではなくムーブメントを使っている。動くことが意図的であれば、それは動きである。また、重要な要素がある場所から別の場所へと移動する場合にもmovementが使われるのに対し、motionは何かが静止していないことを表現するのに使われる。(参照 Martha Ryan, (2023), [online], https://www.ukentry.com/difference-between-movement-and-motion.html

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