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オンデマンド・アート講座「世界の再生と喜びを促すアートスペース」

AITのオンデマンド・アート講座「TOTAL ARTS STUDIES Premier」(以下、TASプレミア)では、ロジャー・マクドナルドによる 「崩壊の時代の芸術体験」コースより、Series.4「世界の再生と喜びを促すアートスペース」を公開しましたので、お知らせします。

シリーズ4では、これまで見てきたさまざまな理論や実践を踏まえ、アート運動や体験が具体的にどのようにつくられるかに焦点を当てます。

音楽やダンスなど体験を共にすることで共感覚を享受する「集団的喜び」や、さまざまな分野の芸術が調和・協調する「トータルアート(総合芸術)」といった概念を起点に考えると、これからの時代にはどのようなアートスペース、また、どのような価値や倫理、体験を促す空間が必要なのでしょうか。特に「ビジョナリー」な実践例を参照しながら、アート空間がいかに総合的であり、「生きた政治」の場であるかを考えていきます。

このシリーズで「崩壊の時代」と呼んでいる時代において、ラディカルなアート体験の見直しの必要性について考えます。

シリーズで言及する研究者や芸術家、思想家など

  • デヴィッド・ルイス=ウィリアムズ、ドゥルーズ/ガタリ、ウィリアム・バロウズ、カール・ユング、テレンス・マッケナ、デヴィッド・マンキューソ、スピノザ、デビッド・ホルムグレン、ニコライ・フョードロフほか


世界の再生と喜びを促すアートスペース – Spaces of Collective Regeneration & Joy

「崩壊の時代の芸術体験」コースより

インストラクター:ロジャー・マクドナルド(TASプログラム・ディレクター / フェンバーガーハウス館長)
レクチャー数:6 [ 各20 – 30分 ]
使用言語:日本語
視聴期間:90日間〜
料金:1650円(税込)〜 プランによって異なります

洞窟壁画と流動的美術館

考古学者デヴィッド・ルイス=ウィリアムズによる、先駆的な洞窟壁画の説を紹介し、アートの誕生がいかに人間の変性意識体験と近い関係にあるかについて言及します。そして、幻覚体験で「見る」さまざまな幾何学模様など、普段の安定した意識が流動的になることで新たな知や世界にアクセスできるのではないか、というひとつのモデルを考えます。

さらに、ドゥルーズ/ガタリが提唱した「器官なき身体」の概念にも触れていきます。もし、「人間の拡張された意識」を美術館に反映するとしたら、果たしてどのようなアートスペースを創造できるのでしょうか。

エクスタシーをひらくアート 

フランスの哲学者ジルベール・シモンドンやドゥルーズ/ガタリの考えを参照しながら、自己完結する「私」を、開かれた可能性で溢れた「私」にシフトするとどのようなアートが見えてくるのかに着目します。

また、古代ギリシャ哲学が、理想国家を脅かす開かれた肉体や規律に縛られない身体をいかに恐れ、その遺産が現代社会の中での文化規制など未だにさまざまな形で見られることにも触れていきます。特に、ダンスミュージックやレイヴをひとつの大きな参照点として紹介します。その中で、アメリカの思想家テレンス・マッケナの「アルカイック・リバイバル」の考えと、ニューヨーククラブカルチャーの立役者であるDJデヴィッド・マンキューソが主宰したパーティー「ロフト|The Loft」についても言及します。

集団的喜びの芸術空間

新自由主義や過剰な資本主義が、いかに共同体を抑圧してきたか、逆に、個の競争を生活の中心においてきたかについて言及します。17世紀オランダの哲学者スピノザの思想を参照しながら、人間の感覚や気持ちと、社会の中で起こす行動やアクションの関係性について話します。

人々の連帯感や「コレクティヴ」と、これからのアートを考え、集団的喜びを促す美術館とはどのような場所なのかを探ります。スペインにあるソフィア王妃芸術センター|Nacional Centro de Arte Reina Sofíaの先駆的な事例も紹介し、これからのアートの学びの空間について考察します。

「ドリームワールド」への扉:光と没入の技術 

ウィリアム・バロウズとブライオン・ガイシンが発明した光の変性意識装置「ドリーム・マシーン」の歴史に始まり、アートと没入や瞑想的体験の関係を探ります。現代アート批評の懐疑的な視点にも触れ、「アテンション・エコノミー*」時代において、いま、改めて没入体験に重要な意味があるのではないかと考えます。

また、1920年代に行われていた幻覚模様の研究や現象、そしてカール・ユングの元型(アーキタイプ|archetype)についても言及します。最後に、長野にあるフェンバーガーハウスで2014−2015年に行われた「フリッカーアートリサーチ」を紹介します。

*「アテンション・エコノミー」とは:人々の関心や注目の度合いが経済的価値を持つという概念

トータルアートスペース

シャーマニズム研究者テレンス・マッケナの「アートの失敗」から出発し、アートを「コモンズ」として考えると、至上主義とは異なるもうひとつの芸術の地平線が見えてくるのかもしれません。ラディカル・ヒューマニズムの歴史が現代の実験的アートスペースとどう関係しているのでしょうか。

アーティストのタビタ・レゼールがアマゾンの森に立ち上げた集団的ヒーリングスペース「アマカバ|AMAKABA」、イギリスのアート団体グライズデール・アーツ(Grizedale Arts)や長野県にある多津衛民藝館のオルタナティヴな実践のほか、パーマカルチャー発案者の一人であるデビッド・ホルムグレンの中世修道院での「救命ボート」的コミュニティーの事例、そして「知識の方舟」の考え方についても紹介します。

宇宙移住と死者の復活:ロシアのコスミズム(宇宙主義

ソビエト時代に発展したコスミズム(宇宙主義)は壮大なヴィジョンを持った「復活」論でした。ロシアの独特な宗教的背景から始まり、宇宙主義の開祖ニコライ・フョードロフの『共同事業の哲学』を紹介します。

未来的な社会主義とそれを支える新たな美術館、そして輸血研究や宇宙コロニーに至る幅広い歴史に言及します。また、ウクライナで1980年代に独特なコスミズムを展開したアーティストらによる「バイオテクノスフィア|Biotechnosphere*」にも言及し、20世紀のアートの実践で同様にコスミックなヴィジョンで作品を制作した人物も参照します。

*造語。人間の居住と移動のための多目的なモジュール。