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オランダと日本をつなぐトーク「アートの有用性とメンタルヘルス」〜インスピレーション・ツアーと多様な人との芸術体験から考える

[上段] 左:ミュージアム・オブ・マインド、右:東京国立近代美術館でのインスピレーション・ツアーの様子 [下段] 左:ツアー後の創作 右:アトリエ・エーの様子 

写真:阪本 勇(右上、左下、右下)

NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ(以下AIT)では、2023年3月10日に、アートの有用性とメンタルヘルスを考える場として、オンラインのトークイベントを開催いたします。
 
AITが行うディア ミープロジェクトでは、これまで多様なバックグラウンドをもつ子どもたちが自然に混ざり合い、芸術体験を通して本来持つ力を発揮しやすい場づくりや、よりよい未来を想像する学びの場を創出してきました。2022年、こうした経験をさらに発展させるべく、国内およびオランダの団体とともに3者のコラボレーションプログラム「CAT(Collective Amazements Troupe)[*1]」を始動。それぞれの知見を交換しながら、障害ほか多様な特性のある子どもや若者たち、伴走する大人が互いに好奇心を持って出会い、表現の場をともにつくりだしていくことを目的としています。

CATの協働団体は、オランダでアウトサイダーアートやメンタルヘルスをテーマにさまざまな活動を行う美術館「ミュージアム・オブ・マインド」、そして、東京で20年にわたりダウン症や自閉症の子どもを中心としたメンバーで表現活動を行う市民グループ「アトリエ・エー」。

CATの今年度のプログラムでは、障害のあるメンバーとともに美術館を訪れ、対話を重ねながら新たな刺激や気づきを得る「インスピレーション・ツアー(美術鑑賞プログラム)」とその経験から自分の表現を深める創作の機会をつくる、インスピレーション・プログラムを行いました。 精神医療に携わるスタッフやアート関係者ほかさまざまな視点から活動を振り返る「スタディ・セッション」と組み合わせ、ゆくゆくは多様な人々とのより豊かな芸術体験がもたらす可能性を探り、ニューロダイバーシティ[*2]を推進する芸術プログラムへと発展させる試みです。
 
前半のトークでは、協働団体からハンス・ルイエン氏(ミュージアム・オブ・マインド ディレクター)、赤荻 徹氏(アトリエ・エー主宰)を迎え、それぞれの活動や想いを事例とともにお伝えします。また、CATの取り組みを具体的なエピソードを交えて紹介し、今回のインスピレーションプログラムを通じた発見や面白さを振り返ります。
 
後半のディスカッションでは、AITのロジャー・マクドナルドと堀内奈穂子も加わり、「サレンダー(身を任せること)」、「アダプテーション(適応)」、「アートの境界」などいくつかのキーワードから、分野や立場を超えて多様な人と協働する意義や、ともに体験すること、精神とアートの関係性に触れていきます。
 
アートの持つささやかなユーモアや時に批評的な眼差しが、困難な時代や社会にどう介入し、変化をもたらす可能性があるか、一緒に考えてみませんか。

*1「コレクティヴ・アメイズメンツ」とは、集団で体験する(極めていい意味での)驚き、「トゥループ」とは、一人ひとり独立した表現者の集まりを意味している。

*2「神経多様性」を意味する、Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)の2つを組み合わせた言葉。「人それぞれ異なる特性を尊重して、多様性の違いを社会で生かそう」という考え方を広げるための取り組み。


概 要

日時 2023年 3月10日(金)19:00 – 21:30(18:50オープン)
(オランダ時間 11:00 -13:30)
形式 オンライン(Zoom)、参加費 無料(要事前申し込み)

▼スピーカー
活動紹介&活動報告 ハンス・ルイエン(ミュージアム・オブ・マインド)、赤荻 徹(アトリエ・エー)、藤井 理花 (AIT)
ディスカッション 赤荻 徹、ハンス・ルイエン、ロジャー・マクドナルド、堀内 奈穂子 (AIT)

進行/ファシリテーター 堀内 奈穂子、ロジャー・マクドナルド
逐次通訳 池田 哲

*日英逐次通訳あり
*本イベントは、「UDトーク」による文字情報サポートがあります(日本語のみ)

主催:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ、文化庁
企画:AIT ディア ミー
協働団体:アトリエ・エー、ミュージアム・オブ・マインド

協力:資生堂カメリアファンド、SBI新生銀行グループ、ローランド株式会社、東京国立近代美術館

文字情報サポート:文織工房


スピーカー・団体紹介

Drawing by Ryunosuke (atelierA)

赤荻 徹(アトリエ・エー 主宰)

2002年よりダウン症の子どもたちのサッカーチーム「ABLE FC(エイブル・エフシー)」のコーチを務め、2003年よりダウン症や自閉症の子どもたちを中心とした絵の教室「アトリエ・エー(atelier A)」を主宰。2006年アール・ブリュットを特集した雑誌「←→special」編集発行、アトリエ・インカーブ画集「ATELIER INCURVE」編集。

日本財団DIVERSITY IN THE ARTS主催「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」展(2017年)リサーチキュレーター、「ミュージアム・オブ・トゥギャザー・サーカス」(2018年)および「TURNフェス5」(2019年、東京都、アーツカウンシル東京ほか主催)のトークセッションに参加。

ハンス・ルイエン(ミュージアム・オブ・マインド ディレクター)

オランダ、ヘルダーラント州ルールロー生まれ。アムステルダムとメキシコのオアハカで博物館学を学ぶ。ドルハウス財団CEO兼「ミュージアム・オブ・マインド(Museum of the Mind)」(アムステルダム、ハールレム)ディレクター。またヴィレム・ファン・ゲンク財団会長、アントン・ハイボア財団会長、アウトサイダー・アートギャラリー(アムステルダム)およびファンタスティーク・アート・アトリエ(マーストリヒト)のアドバイザーも務める。2016年、エルミタージュ・アムステルダムにアウトサイダー・アートに特化したミュージアム・オブ・マインド2館目となる美術館を設立。当時オランダにはこうした芸術のための場がなく、西洋美術の既成の規範外にある作品が、オランダの文化機関でもっと注目されるべきだと以前から感じ、行動に移した。アウトサイダーアートに惚れ込んだ夫妻が美術館に寄贈した私財の支援により、現在約1400点の作品を収蔵。ミュージアム・オブ・マインドは、2022年ヨーロッパ・ミュージアム・オブ・ザ・イヤーを受賞。

ロジャー・マクドナルド( インディペンデント・キュレーター、TOTAL ARTS STUDIES プログラムディレクター)

東京生まれ。幼少期からイギリスで教育を受ける。カンタベリー・ケント大学大学院にて神秘宗教学を専攻。博士課程では『アウトサイダー・アート』(1972年)の執筆者ロジャー・カーディナルに師事し、近代美術史と神秘主義を学ぶ。1998年帰国後、インディペンデント・キュレーターとして活動。2000年から2013年まで国内外の美術大学にて非常勤講師として教鞭をとる。2010年長野県佐久市に移住。2014年に個人美術館「フェンバーガーハウス」をオープン、館長を務める。市民とともに環境や社会について考える場として「MOACA」を主宰。気候危機や適応に関するレクチャーやディスカッションイベントを開催。「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」展キュレーター(2017年、主催:日本財団DIVERSITY IN THE ARTS)。AITでは、TOTAL ARTS STUDIES (TAS) のプログラムディレクションを担当。2022年にAIT Pressより著書『DEEP LOOKING 想像力を蘇らせる深い観察のガイド』を出版。AIT設立メンバーの1人。

堀内 奈穂子(AIT キュレーター, dear Me ディレクター)

エジンバラ・カレッジ・オブ・アート現代美術論修士課程修了。2008年より、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]にてレジデンス・プログラムや展覧会、シンポジウム、企業プログラム、教育プログラムの企画に携わる。ドクメンタ12マガジンズ・プロジェクト「メトロノーム11号 何をなすべきか?東京」(2007)アシスタント・キュレーター、「Home Again」(原美術館、2012)アソシエイト・キュレーター、国際交流基金主催による「Shuffling Space」展(タイ、2015) キュレーター、「Invisible Energy」(ニュージーランド、2015)共同キュレーターなどを務めるほか、アーカスプロジェクト (2013) 、パラダイスエア(2015、2016)、京都府アーティスト・イン・レジデンス事業(2017)などのアーティスト・イン・レジデンスプログラムのゲストキュレーターを務める。 2016年より、複雑な環境下にある子どもたちとアーティストをつなぐ「dear Me」プロジェクトを開始。アートや福祉の考えを通した講座やワークショップ、シンポジウムを企画する。

藤井 理花(AIT プロジェクト・マネージャー )

千葉県生まれ。出版IT企業などを経て2011年より現職。AITでは主に展覧会やイベント、ワークショップのコーディネートや企画を担当。AITが企画協力した「ゴー・ビトゥイーンズ展-こどもを通してみる世界:子どもキャプションプロジェクト」(2014年、主催: 森美術館)では、学校プログラムや一般の子ども向けワークショップの運営に関わる。AITとカムデン・アーツセンターとの協働企画 ジーナ・ブエンフェルド「回る世界の静止点で」(2014年)、「The BAR vol.8 Today of Yesterday 過去に在る、いま」展(2015年、山本現代)などを担当。AITのdear Meプロジェクトメンバー。個性豊かな子どもやユースが主体的に関わるプログラムを企画。個人の活動に子どもたちとの文化活動、ダウン症や自閉症の子どもを中心としたアトリエ、養蜂グループに参加しているほか、福祉施設で行うアート活動のコーディネーターを務める。

Collective Amazements Troupe [CAT] (コレクティヴ・アメイズメンツ・トゥループ)

Collective Amazements Troupe [CAT] は、2022年に開始した「ミュージアム・オブ・マインド」、「アトリエ・エー」、「ディア ミー (by AIT)」の3者が協働する新プロジェクト。「コレクティヴ・アメイズメンツ」は、集団で体験する驚き、「トゥループ」は一人ひとり独立した表現者たちの集まり、という意味。多様な人たちが互いに好奇心を持って出会い、表現の場をつくりだしていくことを目的に、活動を開始。

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アトリエ・エー(atelier A

ダウン症、自閉症の子供たちを中心とした絵の教室。赤荻徹・洋子夫妻により、2003年より東京・渋谷区で月1回開催。デザインやアートに関わるスタッフを中心に、一緒に楽しみながら、子供たちが制作する環境づくりを行う。限りなく自由に、子どもたちとスタッフが互いに刺激しあい、友情を育み、それぞれに新しい発見をする場として、また、年齢や障害の有無を問わず、たくさんの人との出会いを経験するための開かれた活動を目指している。
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ミュージアムオブ・マインド(Museum of the  Mind
オランダの「Museum of the Mind [ = 心の美術館の意]」は、医療、芸術、科学の境界を横断する美術館。近年は医療博物館だけでなく、博物館全般の人間性を高める画期的な成果を上げたことが評価され、美術館の社会的モデルを牽引する存在といえる。Museum of the Mind のメッセージは、美術館は少人数向けのメンタルヘルス・プログラムにとどまらず、より多くの貢献をすることができるということ。美術館はあらゆる側面において、人道的で思いやりのある、人間性を尊重する姿勢を体現することで、より健全な社会の創造に貢献できる。国のメンタルヘルス財団や機関と連携した運営方式、展覧会コンセプト、スタッフと多様な観客の双方向のコミュニケーションなど、この分野における卓越したセンターとして際立っている。Museum of the Mind は、ユニークで人道的、インタラクティブ、エンパワーメント、活動的な博物館であり、博物館というコンセプトを、非常にオープンな心で人生の学校として発展させる画期的なプロジェクトに基づいている。(ヨーロッパ・ミュージアム・オブ・ザ・イヤー [EMYA] 審査員)
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ディア ミー (dear Me
AITが2016年に開始した、様々なバックグラウンドをもつ子どもたちや若者と、アートの考えやアーティストの表現をつなぎ、よりよい未来を想像するプロジェクト。
自由な世界や多様な価値観を共有するワークショップやイベントを企画・実施。子どもたちとともに生の表現にであう「美術鑑賞プログラム」、国内外のアーティストや専門家を招いて行う「創作ワークショップ」、アートとケアを横断するレクチャー、当事者の声を表現をつうじて発信するプログラムなど、自己肯定感を高めながら自由に表現する場、そして、世界の広がりと社会との繋がりを実感する機会を創出している。
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NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]とは

2001年、現代アートに興味がある誰もが学び、対話し、思考するプラットフォームづくりを目指して、6名のキュレーターとアート・マネジャーが立ち上げた非営利団体です(2002年法人化)。AITは先進的な企業の社会的要望に基づいたアートプログラムにコンサルティングや企画で関わるほか、芸術家や研究者延べ150人以上を派遣・招聘し、知識と経験を共有する国際交流の場を、多数の海外文化機関・財団との協働を通じて創出しています。website

文化庁委託事業「令和4年度 障害者等による文化芸術活動推進事業」
『障害のある子供たちの表現力を引き出す、芸術の鑑賞体験と表現のインスピレーションプログラム』