blogBACK

フィンランド出身アーティスト、アナスタシア・アルテメーヴァ 日本滞在レポート


AITが行うアーティスト・イン・レジデンスプログラムでは、2022年よりフィンランド文化財団との連携により、フィンランドを拠点に活動するアーティストを東京に招聘しています。本ブログでは、2023年に招聘したフィンランド在住のアナスタシア・アルテメーヴァ(Anastasia Artemeva)による滞在レポートと、リサーチの様子を写真とともにご紹介します。

アナスタシア・アルテメーヴァ(Anastasia Artemeva)について

アナスタシア・アルテメーヴァは、フィンランド、ヘルシンキを拠点に活動するアーティストです。Limerick School of Art and Design(アイルランド)で学び、Aalto University(フィンランド)で美術の修士号(環境芸術)を取得。インスタレーション、写真、テキスタイル作品を制作しています。また、芸術分野における多文化主義と公平性を促進する「多様性アドバイザー」の訓練を受け、家庭生活と労働、孤立と閉鎖性などについて研究を行っています。また、フィンランドほか複数の国で刑務所の中と外をポストカードでつなぐ表現プロジェクトにも取り組んでいます。近年は、縫製の技法や表現に関心を持ち、その創造性に限らず、縫製が刑務所やスウェットショップ(労働者を非常に低い賃金、かつ劣悪な労働条件で働かせる工場「搾取工場」の意)など、罰や奴隷労働の手段としても使用されてることに着目しています。こうした労働プロセスにおける潜在的な暴力は、彼女の現在の芸術的実践の中心的な概念となっています。


日本でのリサーチ:アトリエ・エーの多様な子どもたちとのワークショップ

日本に滞在中、私には、いくつかの目的がありました。ひとつは、布をスケッチの素材として使用する「テキスタイルブックプロジェクト」をさらに発展させること。そして、東京近郊におけるかつての刑務所や現在も使用されている収容施設をリサーチすること。さらに、日本のテキスタイル産業と伝統をリサーチしたいと考えていました。私のこれまでの実践の重要な部分として、ワークショップを通じて人々と直接関わりを持つということがあります。こうした「コミュニティアート」の実践を東京で行うことができればと考えていました。

そうしたリサーチは、予期せぬお誘いもあり、少しずつ進行していきました。ひとつは、AITによるdear Meプロジェクトに参加したことです。dear MeはAITが2016年より実施するプロジェクトで、遊びやアートを通した学びを重視し、あらゆる子どもやユースがアーティストと協働しながらよりよい社会を想像することを目指しています。そうしたプロジェクトの関係性を通して、ダウン症や自閉症そのほかの子どもやユースが集まる表現教室「アトリエ・エー(atelier A)」でワークショップを開催することができました。そこでは、私たちは「海の景色」から構想して、スポンジやハギレを素材に使ったテキスタイル彫刻を制作しました。

ところで、日本は私のような家庭愛好家にとって楽園といえます。日本ではさまざまな家庭用品:あらゆる種類の布、フック、ネット、包装材料、容器など、役立つものがたくさん見つかるのです。その中でも私は、何種類かのスポンジを購入しました。その素材の均一性、柔らかさ、色の豊富さに大変惹かれたのです。そして、スポンジを使った実験を行った結果、ワークショップの参加者にはこれらの日常の素材で遊んでもらうことにしました。

このように、参加者とその家族も一緒に参加できるアトリエ・エーでワークショップができたのはとても特別な経験でした。


自然に囲まれた福祉施設でのワークショップと、少年院への訪問

その他に、千葉にある福祉施設「空と海」に訪問し、ワークショップをする機会がありました。「空と海」は、社会福祉法人地蔵会が運営する福祉サービス事業所です。日常のケアが必要な人々のためのデイセンターとグループホームでの共同生活援助が行われています。施設の周りには美しい森があり、参加者はここで自由に散歩を楽しむことができます。ワークショップでは、参加者に窓の外を眺めてもらい、朝の散歩やそのエピソードを思い出し「自分だけの魔法の森」を想像してもらいました。素材は施設に寄付されたたくさんの布地から、着物の生地や系、近くで摘んだ植物などを使用して、みな思い思いに自分だけのファブリックの本をつくりました。

さらに、AITのネットワークを通して、滞在中に少年院で活動を行うデザイナーに会うこともできました。特に、東京・八王子市にある多摩少年院に定期的に訪問しているグループに参加できたことは非常に特別な体験でした。私たちが訪れた時は、多摩少年院の設立から100周年を祝う芸術プロジェクトの主催者と面談することができました。

ほかには、女性受刑者と法務省矯正局、東京藝術大学Diversity on the Arts(DOOR)と協働し、刑務所の中にあるファッションブランドを立ち上げた「みとびらプロジェクト」で活動する女性デザイナーに出会えたこともとても素晴らしかったです。近年、日本では、デザイン、工芸、テクノロジーの先駆者などとともに、社会参加を支援する創造的な実践が活発になり始めているように感じました。これらの変化を実現するために長年努力してきたアーティストにとっては、とてもやりがいがある時代になっていると感じます。「みとびら」はまさにその革新の一例といえるでしょう。彼らは特に、若年で初犯など更生に意欲的な女性たちがいる矯正施設と連携し、そうした女性受刑者がデザイン・縫製した製品を販売する機会を創出しています。ここで生まれたファッションは、伝統的な日本の生地と西洋のデザインの融合でもあり、スタイリッシュで高い品質を保っています。このプロジェクトは女性の連帯の一例です。

彼らへのインタビューで、ディレクターの松尾さんはこう語りました。

「受刑者の多くの人は出所して仕事をはじめるときに金銭的な余裕がないため、再び犯罪に走ることが多いと聞きます。そして、短期間の刑を受ける人は適切な訓練を受けることができません。そのため、社会ですぐに活躍できる機会が限られています。みとびらプロジェクトでは、女性たちに裁縫やデザインのスキル向上を促しています。私は彼女たちに十分なスキルを持って欲しいと願っています。そして、これからはその技術を活かして仕事にしてもらいたいと考えています。」 

– 松尾 真紀子 (みとびらプロジェクト共同ディレクター)


レジデンスを終えて

この日本でのレジデンスの経験は私の中で最も貴重なもののひとつとなりました。滞在時の季節は真夏で、東京の40度の暑さの中で思考するのは難しいと感じましたが、この時の環境、天気、そして湿度は私の実践に新しい視点を提供しました。日本での生活空間や家具などへの私の関心は、自然災害への備えを探求する新しい研究プロジェクトの構想へと導きました。

そして、今後も、AITや少年院との協働を継続し、フィンランドと日本のユースとのつながりをつくり続けたいと考えています。

日本で2ヶ月を過ごして、私は出会った人々のエネルギーやマルチタスクぶりに感心しました。非常に刺激を受けたので、私も今後はそうした姿勢を見習おうと思っています。

最後に、私と私の家族を歓迎してくださり、私の考えに常にオープンな姿勢を持ってくれたAITチームに、そして滞在中、私と会う時間をつくってくださり、自分たちのアートや考えの一端を垣間見せてくださった方々に感謝します。

アナスタシア・アルテメーヴァ

https://anastasia-artemeva.com/

RESIDENCY とは?

RESIDENCY

海外の文化機関や財団との協働を通じて、多領域で活動する芸術家や研究者を日本に迎え、知識と経験を共有する国際交流の場を創出しています

EVENTS & WORKSHOPS