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Vol.4:GCCインタビュー「ギャラリーと気候危機」

AITは、2020年10月にロンドンで設立された「ギャラリー気候連合(Gallery Climate Coalition [GCC])」のメンバーになりました。

「気候危機とアート」シリーズ4回目では、GCCの設立メンバーでありギャラリストのケイト・マクギャリー氏のインタビューをお届けします。

GCCは、ロンドンを拠点とするギャラリストやアート関係者によって設立された非営利団体で、深刻化する気候危機に対して、アート界ならではの対応策を打ち出し、新しい試みを続けています。https://galleryclimatecoalition.org/

聞き手は、AITのロジャー・マクドナルドです。

Q1. 私にとって2017-18年は、気候や生物多様性の危機をより強く意識するようになった年でした。あなたにもなにかターニングポイントとなるきっかけはありましたか。どのようにして危機感を持つようになったのでしょうか?

2017-18年といえば、気候変動のニュースが増えてきたことに不安を感じ始めていた時期です。またその頃「フライトシェイム(Flight shaming)」が話題になっていましたね。2019年のアート・バーゼルでは、「気候について話そう」というパネルディスカッションに参加することになり、アーティストやコレクター、ジャーナリストなど、同じ志を持つ仲間たちとの会話がはじまりました。

* フライトシェイム(Flight shaming)とは、航空業の気候変動への影響の大きさから、飛行機に乗ること(=環境破壊に加担すること)を恥とし、鉄道など他の移動手段をすすめる新語
* アート・バーゼルとは、スイス北西部の都市バーゼルで毎年開催される世界最大のアートの見本市

Q2. GCCの設立についてお伺いします。最初からアジェンダがあったのでしょうか?どのようにして具体的な行動に結びつけていったのですか?

2020年の最初のロックダウンの直前に、トーマス・デーン・ギャラリー(Thomas Dane Gallery)で行われた、GCC設立メンバーによるミーティングに招待されました。その時のミーティングでは、気候変動に関する専門家の話を聞き、どうすれば変化を起こせるかを考えるため、50のギャラリーを集めたランチ・イベントを企画していました。このランチ・イベントは2020年7月に予定されていましたが、その後、ロックダウンになったため、代わりにZoomで毎週ミーティングを行うようになりました。

ミーティングでは、まず最初に専門家の話を聞きました。環境科学者のダニー・シバーズ(Danny Chivers)は、活動に関するアドバイスに加え、GCCの主要機能であるカーボン計算機の設計に協力してくれました。彼は、私たちがどこを変えていくべきかを明確にするために、自分たちのカーボンフットプリントを分析することを勧めてくれたのです。

* カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料の調達から生産、流通を経て最後に廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの

Q3. ウェブサイトのリソースは素晴らしいですね。ITの専門家や気候科学者とはどのような協働がありましたか。

そういってもらえると嬉しいです。ウェブサイトは、設立メンバーの一人であるArtlogic社のピーター・チェイター(Peter Chater)がデザインと構築を担当してくれました。ダニー・シバーズが排出量の計算方法をアドバイスしてくれて、トーマス・デーンと私がパイロットギャラリーとして参加しました。

Q4. GCCのレポートを読むと、アート業界において飛行機を使ったエアトラベルと作品輸送がCO2の二大排出源であることがわかります。これらの問題をどのように削減し、解決しようとしていますか?

取り組むべきことは、3つです。まずは、「エアトラベル」です。これは大きな問題で、GCCのメンバーになると、2030年までにフライトを50%削減することに同意することになりますが、私はいつもそれ以上のことができると言っています。実際、50%以上の削減に取り組んでいます。例えば、2019年のアート・バーゼルでは、4名のスタッフがスイスまで飛行機で移動しました。今年は、ロンドンのギャラリー「The Approach」と出展ブースを共有したので、スタッフは私一人のみとし、二酸化炭素をどれだけ減らせるかを考えて、パリを経由して電車で向かいました

次に「作品輸送」です。私たちは皆、作品を空輸することに慣れてしまっているため、即時の対応は難しいと感じています。船での輸送も可能ですが、美術品によっては保険や環境(湿気や温度)の問題があります。私たちは、出張や渡航費への助成や補助よりも、この輸送分野への投資が必要と考えます。GCCは、この点について保険会社や荷送人と交渉し、一定の成果を上げています。また、作品が数日ではなく数ヶ月で配送されるスケジュールになることを理解するなど、アーティストやコレクターもマインドを変えていく必要があります。

そして3番目は「建物のエネルギー」です。まず簡単にできることは、電力会社を再生可能エネルギーに変更することです。私たちは、電球をすべてLEDに変え、屋根にはソーラーパネルを設置しました。建物は、持続可能性を優先して設計する必要があります。

Q5. あなたはアートフェアや展覧会に飛行機で行かないことを約束しているそうですね。実際にはどうなのでしょうか?陸路での移動しかしないのでしょうか?

二度と飛行機に乗らないとは言いませんが、短期的にはその予定はありません。また、国際的なアートフェアに作品(と人)を飛行機で往復させることは原則的にしないと決めました。私たちは、アートフェアで顧客に作品を販売することが多いのですが、二酸化炭素のコストを知ってしまった今、それを正当化することはできません。今後、飛行機を利用する際にはよく考え、可能な限り1つの地域で複数の用事を済ませるようにしたいと思っています。

Q6. 貨物や作品輸送についても同様の考えですか?

この分野ではやるべきことがあります。しかし、重い作品を空輸することには賛成できません。アーティストたちは、作品を船便で送ることを主張し始めています。GCCのウェブサイトに掲載されているアーティストのゲイリー・ヒューム(Gary Hume)のインタビューをご覧ください。GCCやギャラリー、アーティストが提案する、これらの輸送に関するアイデアや決定は、人々に影響を与え、新しい方法を考えさせるものです。私たちの多くがタバコを吸うのを止められたように、このような変化を推し進めることは可能だと思います。

Q7. ビジネスチャンスを逃す可能性があっても、利益よりも気候変動対策を優先させるということでしょうか?

パンデミックがあったために、ある側面では、旅行をしなくてもビジネスができることが証明されました。それによって良い機会を逸することもあるかもしれませんが、地球が死んでしまったら芸術は存在できませんからね。

Q8. GCCのもうひとつの重要な点は、同じ志を持つ人たちがアイデアを共有し、協働する連帯感だと思います。気候変動は恐怖であり、心理的なストレスでもあるので、団結することは重要だと考えます。

確かに、一人で行動を起こそうと思うと、圧倒されてしまいます。我々には、サプライヤーへの働きかけやネットワークが必要なので、「数」の強みは確かにあります。パンデミックは、我々に衝撃とともに、GCCを立ち上げる時間を与えました。また(以前から考えられてきたことでもありますが)COVID-19のアウトブレイクは、変化がいかに重要であるかを気付かせてくれました。

GCCは、11月24日にバービカン(Barbican)にてGCCカンファレンス「Decarbonising the Art World」を開催しました。英語のみですが、アーカイヴでも閲覧できるので、ぜひご覧ください。

Q9. 気候変動対策の第一歩を踏み出そうとしているギャラリーや芸術団体に、アドバイスをいただけますか?

GCCのウェブサイトにあるカーボン計算機(無料)を使って、二酸化炭素排出量を計算してみてください。計算結果が出れば、どこを減らせばいいのかわかります。そして、10年後に二酸化炭素排出量の50%削減を目標にしてください。おそらく、建物のエネルギーを再生可能エネルギーに切り替え、飛行機の利用を減らし、可能な限り船で移動する、という答えが返ってくるでしょう。また包装材を再利用し、プラスチックの削減にとりかかることも大切です。

基本的な「5つのR」の取り組みを紹介します。

  • Refuse = 受け取らない
  • Reduce = 減らす
  • Re-purpose = 使い回す
  • Recycle = 再生利用する
  • Rot = 腐らせる(土にもどす)

Q10. 気候危機の時代におけるアートの役割をどのようにお考えですか?ビジネスの側面だけでなく、市民にひらかれたケアサポートとしての機能もあると思いますか?

そうですね、英国のテート(Tate)は、この分野のリーダーであり、気候問題に真正面から取り組むアーティストを支援してきました。たとえば、ターナー賞にノミネートされたアーティスト・コレクティヴの「Cooking Sections」が良い事例です。アーティストは変化を促すことができ、社会全体に影響を与えることができる役割として、彼らのメッセージは重要です。同時にその責任もあります。

アーティストのヘイリー・メリン(Haley Mellin)が設立した非営利団体「Art to Acres」もぜひチェックしてください。彼女は先住民や生物多様性を支援するために大規模な土地保全に取り組む活動を行っています。https://art-to-acres-com.webnode.com/

Q11.あなた自身はこれからの10年をどのように考えていますか?食糧生産や旅行など、私たちの日常生活が大きな影響を受けるのではないでしょうか。

確かに、最悪のケースのニュースには恐怖を感じますが、私たちは前向きに考え、できることをしていかなければなりません。各国の政府がこの問題に真剣に取り組み、早急に行動することが必要です。COP26での合意が十分なものになることを願っています。私たちは変化のために投票し、石油をボイコットするなど、できる限り代替エネルギーを支援する必要があります。また、(気候危機の)影響を最も受けるのは、南半球(の人々)であることは明らかであり、二酸化炭素排出量の少ないコミュニティなのです。世界人口の約90%の人は飛行機に乗ったことがないと言われています。

Q12. 最新情報を得るために、どのような気候関連のリソースやニュースサイトを利用していますか?

GreenPeace、Parents for Future、Extinction Rebellionなどをフォローしていますが、なかでもClientEarthは、パリ協定に違反した政府や企業を訴えて、地球を守るために法律を駆使する弁護士グループが運営する素晴らしいチャリティ団体です。彼らの活動により、石炭火力発電所が閉鎖されています。私は周囲の人々にClientEarthに資金提供することを勧めています。彼らは、化石燃料を止めるために迅速に行動することができます。GCCは、ロンドンとニューヨークのクリスティーズで行われた2回のオークションで、これまでに550万ポンドを彼らのために集めました。彼らは私たちに希望を与えてくれます!

ケイト・マクギャリー(Kate MacGarryディレクター、Gallery Climate Coalition設立メンバー兼理事)

アートワールドで10年間さまざまな職務を経験後、2002年ロンドン東部にギャラリーをオープン。23名の国際的なアーティストを取り扱っている。そのうちのサムソン・カンバル(Samson Kambalu)は、トラファルガー広場の四隅のうち北西に置かれた台座「フォース・プリンス」のコミッションワークとして、彼が提案した「アンテロープ Antelope」が2022年に実現予定。ターナー賞受賞者のヘレン・カムモック(Helen Cammock)は、ロンドンの地下鉄で展開しているプロジェクト「Art on the Underground」に大規模なコミッションを制作した。ピーター・マクドナルド(Peter McDonald)は2009年にジョン・ムーア絵画賞を受賞。ゴシュカ・マクーガ(Goshka Macuga)は、2008年にはターナー賞にノミネート後、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展やドクメンタ13に参加するなど、活躍の場を広げている。https://www.katemacgarry.com/