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Beyond the Megapolis: Japanese Design & Local Heroes


2018年度 文化庁助成によるアーティスト・イン・レジデンスプログラムにて、エジンバラ(スコットランド)を拠点に活動するデザイン・キュレーターのステイシー・ハンターを招へいしました。ハンターは、1月9日より3月5日まで、東京のAITと佐賀県有田町のCreative Residency Aritaのサポートを受けながら、レジデンス滞在を行いました。
自国の文化アイデンティティとデザインの作用や関係性に関心が高く、その点から、佐賀県有田町で新たに発足・発信されている「2016/」プロジェクトを通した伝統工芸とその創作をめぐる一連の活動に着目しています。
滞在後、スコットランドを中心にアートとカルチャーを取り上げるマガジン&オンラインメディアの「The Skinny」に、その所感を寄稿しました。
*「続きを読む」から、日本語対訳でお読みいただけます。

Beyond the Megapolis: Japanese Design & Local Heroes




『巨大都市のその先に』
ステイシー・ハンター


「ヨーロッパで、卓越したデザインは大都市に存在する。」−これは果たして本当だろうかと疑いながら、自分のプロジェクト「Local Heroes」にこれまで取り組んできました。今回は、日本の大都市・東京のその先に発見した、クリエイティヴ・コミュニティについてレポートします。

これまでスコットランドデザインにまつわる記事をお読みくださった方は、私が 2019 年はじめに休暇をとっていたことにお気づきかもしれません。昨年は、スコットランドのデザインコミュニティにスポットライトを当て、デザインが私たちの日常生活にどのような働きを担っているのか紹介するため、執筆活動からデザイナーにスーベニール(お土産感覚で気軽に楽しんでもらえるアイテムからレインコートなどのアパレルまで)の制作を依頼するなど、多忙な一年でした。「Local Heroes」は、専属のギャラリーもコレクションも持たず、 ポップアップショップという一時的な空間を媒介に、許す限りの予算で、デザインやクラフト文化を探求するキュラトリアル活動を行っています。
今年、私はスコットランドのグラスゴーにあるCove Parkと、東京のアーツイニシアティブトウキョウ[AIT/エイト]、佐賀県主催のCreative Residency Aritaが協働するアーティスト・イン・レジデンスプログラムに参加し、2 ヶ月間、リサーチを目的として日本に滞在しました。その半分を人口1000万人近い東京で過ごし、残りは人口2万人ほどの佐賀県有田町で過ごしました。スコットランドを離れて、国を越えた思考の変化と交換の時がやってきたのです。

デザイン・キュレーターとして、鮮やかな日本のデザイン文化に惹き付けられるのはごく自然なことでした。その中心都市・東京は、強烈かつ非現実的な視覚言語を放っています。そこでレジデンスプログラムの企画と運営を行うAITの東海林慎太郎さんは、同時期に開催されていた「民藝」(名も無き職人の手から作られた生活道具がもつ真と美を積極的に紹介した「民藝運動」がある)にまつわる展覧会を案内してくれたほか、プロダクトデザイナーの北川大輔さんとは、自国のアイデンティティとデザイン文化の関係性について印象深い話ができました。研ぎ澄まされた感性で厳選した物が並ぶ屋外でのアンティークマーケットと、立派な建物の高級デパートが混ざり合う東京の姿は、エクストリームな一面とテンポの早さを感じさせ、私のように質素なスコットランド人でさえも、消費者としての物欲を刺激されるものでした。

有田と「2016/」デザインプロジェクト
滞在中盤、東京で会った人たちも足を運んだことが決して多くはない、佐賀県有田町に向かいました。ここは、九州、佐賀県の西部に位置する町です。2 年前、佐賀県が主催する「2016/」プロジェクトをきっかけに、有田町にある商社と窯元が「2016/」というデザインブランドを発表して以来、国際的にその名を聞く機会も増えてきました。
1616 年、有田町の泉山で陶磁器の原料となる陶石が発見されてから、そこは有田焼で知られるようになりました。混じり気のない純白の陶器に、特徴的な青の模様を施された有田焼は、元来、オランダの東インド会社を通してヨーロッパに運ばれていました。それから400 年後、新緑の山々に囲まれたのどかで静かなこの町で、代々、職人たちが伝統を受け継いでいます。町には夕刻を知らせるチャイムが響き、その時間の流れは、今までの場所とまるで違います。通りには思わず写真に収めたくなる昔ながらのお店が並んでいますが、出入りする客はそう多くありません。その背景の一つは、いわゆる伝統的な有田焼を買い求めるお客の平均年齢が上がっていることもあり、お店の売り上げも変わらずそのままとはいきません。
例えば、そこにヨーロッパからお客を呼び込んで新しいマーケットを見出そうとすれば、 文化の違いにも着目してはどうでしょうか。日本人は長い間、取っ手がない湯呑みからお茶を飲んでいますが、経済衰退から抜けるため、例えば、今までの「かたち」そのものを変えることも有田焼には一考です。
そこで商社と職人たちが協働して、何百年も続く伝統的手法に実験的なコンテンポラリーデザインを重ねた商品を発表、それらは世界的なデザインフェアのミラノサローネで脚光を浴びました。デザイン雑誌 Wallpaperは「まるで魔法のような陶器」と評しています。これは、日本のデザイナー柳原照弘とオランダのデザイナー、ステファン・ショルテンとキャロル・バーイングスがディレクションを務め、成形や釉薬、絵付けなどに携わる類い稀な職人と、海外で活躍する16 組のデザイナーたちの技と感性を融合させて生まれた「2016/」プロジェクトです。
プロジェクトで選ばれたデザイナーは興味深い活動歴を持ち、それぞれの創作プロセスも異なります。年齢や国籍、バックグラウンドまで違う彼らは、全員が陶器に親しんできたわけではありません。スイスのデザイナーデュオ、サラ・クーンとロヴィス・カプートは、有田焼の技術を最大限に生かして、職人の手によって生み出される幾何学的な形状と、「吹付」というエアブラシを使ったささやかな色のグラデーションを表現する色付けの技術を用いたコレクションを提案しました。デザイナーのショルテン&バーイングスは、伝統的モチーフを精細かつ抽象的に手で着色する技術を取り入れた 27枚の皿をアート作品として発表、それぞれが歴史的造形に由来しながらも、その姿はいくつにも重ねられ、精巧な新しい形を浮かび上がらせました。

日本のデザインカルチャーをめぐって
有田町でレジデンスプログラムの企画と運営を行ったCreative Residency Aritaの石澤依子さんの手引きによって実現した有田町での4週間の滞在は、これまで門外不出だったであろう日本のデザインカルチャーと、その生産の裏舞台を見ることができた、かけがえのない経験でした。石場から陶石が運び込まれて土にしたのち、力が必要なこねる作業、鋳込み、成形、私もインターンで手伝った水拭きや工房の分担作業で行われる焼成前の準備、大きな毛筆で描く繊細な下絵など多くのプロセスを経て、腕まで浸かる釉薬付けのあと、ようやく窯元の窯で焼き上がります。
滞在中、「2016/」ブランドマネジャーの陣内裕子さんとお会いして、アートギャラリーのようなしつらえをした「2016/」のショールーム兼ショップで、地方都市を舞台に活動する利点について話をしました。そこにはミニマルなデザインのカフェ、綺麗に並んだディスプレイ棚、そしてコンクリートの壁面にはオランダ、ドイツ、日本、アメリカのデザイナーが有田焼の職人と協働した映像が流れていました。東京から離れてここを訪れるデザイナーには、時間の変化を経験してもらい、地域の様子を深く知った上で試作を必要なだけ重ね、アイディアを形に練り上げて欲しい。まさに「2016/」プロジェクトは、伝統工芸を敬いながら現代のデザインを同じ俎上にあげ、実験的かつ革新的な創作ができる場であったことを熱く語りました。
「2016/」プロジェクトの成功には、独特な伝統工芸と技、美しい土地柄、そしてヨーロッパにおける発表の場やメディア、マーケットの完全なネットワークに鍵があると思います。現在、いわばデザインルネッサンス期の渦中にあるスコットランドでは、ニットや織物、ジュエリー、ガラス製品、陶器など価値ある多くの伝統と技にアクセスすることができ ます。デザイナーのジェニファー・ケントやヒラリー・グラントが、製造者と良好な関係を築き、スコットランド製で有名なニットの品質保持に気を配りながら今日制作していることを、ここで考えられずにいられません。

スコットランドの多様かつ独特のコンテンポラリーデザインと「Local Heroes」のような プロジェクトが、突出したデザイン作品を生み出す個人やスタジオを発掘するために奔走しているのをこれまでお伝えしてきました。しかし、まだその広がりには可能性があります。 もしスコットランドのデザイナーたちが、これまでデザインの中心部と考えられてきたロンドンから地理的な距離ゆえにビジネス面で不利と感じるならば、彼らの仕事を、適切な場所とタイミングで、時代と感性に寄り添いながらどのように紹介するのか、考えなければならないでしょう。このテーマに関しては、まだ探求すべきことがありますが、意欲的なアイディアは広がるばかりです。
引き続き、ご報告をお楽しみに!

日本語訳:安永ジューストー沙羅
編集:東海林慎太郎[AIT]



レジデンスプログラム企画運営:AIT、Creative Residency Arita(佐賀県有田町)
海外協働機関:Cove Park(グラスゴー、スコットランド)
助成:平成30年度 文化庁 アーティスト・イン・レジデンス活動支援事業

2019-4-22